米国政治キーワード 第23回 / 全35回

(23)フィクションにおけるアメリカ合衆国の核戦争 映画編

m.s. and bluebird
目次

『博士の異常な愛情 』(1964)
『未知への飛行』(1964)

大抵この2作は冷戦期核戦争ものとして挙げられるが冷戦期において既に構造的に古い作品と言わざるを得ない。両作とも爆撃機による核攻撃を軸に描いており、一定の猶予があってその中で解決できるかというカウントダウン・スリラーとでも言うべき構造に依存している。

未知への飛行 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AA%E7%9F%A5%E3%81%B8%E3%81%AE%E9%A3%9B%E8%A1%8C

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%9A%E5%A3%AB%E3%81%AE%E7%95%B0%E5%B8%B8%E3%81%AA%E6%84%9B%E6%83%85_%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%81%AF%E7%A7%81%E3%81%AF%E5%A6%82%E4%BD%95%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%A6%E5%BF%83%E9%85%8D%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%82%92%E6%AD%A2%E3%82%81%E3%81%A6%E6%B0%B4%E7%88%86%E3%82%92%E6%84%9B%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%8B

『By Dawn's Early Light』(1990)

ICBMやSLBMが飛び交う核戦争ものは意外にない。その観点で本作は冷戦末期の空気を反映させていて興味深い一作である。

原作小説『15時間の核戦争』(”Trinity’s Child”)を元に原作者が冷戦末期、ソ連の弱体化が進んだ状況に舞台設定に書き換えてHBOのテレビ映画として映像化した。
ソ連崩壊後の内戦でトルコに隠れているソ連反乱軍がドネツクにあるICBMサイロへの核攻撃を行い、ソ連首脳部はそれをアメリカによる攻撃と誤認して限定核攻撃をアメリカに対して実施した。大統領はやむを得ずICBMによる限定核攻撃を命令、退避中に行方不明になり戦略核の指揮所となる空中指揮機は大統領権限継承者を探し、内務長官、コードネームコンドルを収容したがこの人物がウルトラタカ派でソ連への全面核攻撃を命じたくて仕方がない人物だった。SLBMなど残っている核兵器の全てをぶつける全面核戦争を食い止めらるのか、食い止められないなら世界が終わるという最悪の極限状況を描く。

原作小説はB-52に近づいてしまいそうになった搭乗員の子供を警備の兵士が押し倒すとかそんな描写から始まっている。人間性が皆無の規則と命令に忠実に核攻撃遂行を躊躇なく行える人たちばかりが出てくる中で、核攻撃を防ぐための自己犠牲しかないような描写が多数ある。このような非人間性を強めたかったのだろうと思うが空軍空中指揮機ルッキング・グラスに搭乗している指揮官のコードネームはアリスであり、また別の空中指揮機E-4の指揮官はハープーンというコードネームでしか呼ばれない。彼らはシステムに埋め込まれた無個性、非人間化された存在として当初描かれている。
この作品はこのような非人間的な核戦争システムに対して単に従うだけじゃない人たちを描こうとしていた。

By Dawn's Early Light - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/ByDawn'sEarlyLight

『オッペンハイマー』(2023)

マーティン・シャーウィン&カイ・バード原作ノンフィクション『American Prometheus』に基づいてクリストファー・ノーラン監督が映画化。広島・長崎への核攻撃自体は見せず、トリニティー実験に至る道程とオッペンハイマー博士がたどった戦後の戦いと敗北、オッペンハイマー博士を妬み失脚を画策したストローズが商務長官という政治家への転身でキャリアの頂点を狙いそしてオッペンハイマー博士に構いすぎた結果を背負うことになる様相を描いている。

スティムソンの登場するシーンは史実には存在しない。ただスティムソンの真摯さは真摯な故に滑稽でありそしてある人達が救われたがある人達を殺しそして後々まで影響を与えるような戦禍を与えた。この観点でフィクショナルなスティムソンの京都外しへの執念を見せたのは正しい。ただ、新婚旅行で京都を訪れたような話は出典不明。スティムソン夫妻はスティムソン当人のアメリカ占領下フィリピンとの関わりの中で来日はしているが、それ以前にあったという話は出てこない。

本書でのトルーマン大統領とオッペンハイマー博士の面会について近いものはあってトルーマンがオッペンハイマー博士の発言に激怒していたことは彼が書かせたメモが残っていてわかっている。トルーマンは全ての責任は大統領にあるという考えの持ち主だった。だからこそ8月10日には大統領命令なき核攻撃の実施を禁止するという直感的としか思えない判断を下している。グローヴス将軍からの3発目の用意に関する書類にマーシャル陸軍参謀総長が大統領命令として核爆弾使用に関するトルーマンの指示があったと書いていて、これがトルーマンの名において出された最初の核爆弾の扱いに対する最初の指示になり、そして今日までアメリカの核兵器統制の根源にもなっている。

オッペンハイマー (映画) - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC_(%E6%98%A0%E7%94%BB)

『ハウスオブダイナマイト』(2025)

Netflix配信映画だが、映画館での限定公開も行われた。キャスリン・ビグロー監督作品。

ある日突然日本海方面から発射者不明な弾道ミサイルが打ち上げられた。ミサイルもしくはロケットのテストかと思われたがそのミサイルの軌道は水平になりアメリカ本土に着弾する可能性が高いと計算され、アラスカに配備されたGBI(地上発射型迎撃ミサイル)が2発発射された。弾道ミサイル攻撃に対する対処時間はわずか20分。盾は1枚しかない状態の中で核戦争に対応する非人間的な措置、必然的に起きる混乱、そして選択肢の乏しい中で自動的に離陸してロイターリング(空中待機。原語”Loitering”の意味は「徘徊」)に入るB-2戦略爆撃機。
フットボール担当士官は淡々と給仕のごとくステーキの焼き加減に例えて説明をする。STRATCOM(戦略軍。核戦争遂行を担う統合軍)の司令官は大統領に”Your orders”と問う。
核戦争だと判断されるような弾道ミサイルがたった1発でも飛来したら。その時点で核抑止体制は崩壊しており疑心暗鬼、自国だけ消滅するとか許さない前提で核保有国はその使用を辞さない方向で動き出す。アメリカの場合、フットボール担当士官(大統領による核戦争に関わる命令を発動するのに必要な手続きを支援する)は誰をどの程度殺してこの状況の落とし前、相手の持つ反撃力を先手を打って叩くかしか考えていない。
ロシアは弾道ミサイルがロシア上空を通ることを認めないと言い出す。弾道ミサイルは宇宙と言っていい高度を飛翔していて通常国家主権は及ばないと考えられている(から、偵察衛星とか米ロに限らず飛ばして宇宙の地球周回軌道上から相手の挙動を監視している)。そこで勝手に制限を求めるロシアの腹の底はアメリカが撃ってくるという確信があるからだろうし、アメリカはもはやその疑心に対して止めるだけの説得力のある制止をできるだけの力も猶予もない。
本作は大統領の最後のセリフ、STRATCOMへ何を言おうとしたのかカットしていてその後を描いていない。ただSTRATCOMも大統領もordersと言っていた。この期に及んで大統領に食い止められるわけがないことを示していたと思う。

ハウス・オブ・ダイナマイト - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%BB%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%88

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朝「えみり既読おそーい」(『違国日記』6巻より)

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